* 腐女子向け発言満載 *
妄想咲き乱れる徒然日記。
……ときどきBL小説。
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泡沫
Story of Safari
伊吹片思い男娼パロ。







揺蕩う瑠璃の光。
深い海の中に、伊吹は、かなでと二人で並んでいた。
涼やかに泳ぐ魚群を見つめるかなでの、その横顔を、伊吹は見つめていた。
睫毛が白い肌に影を落としているのが、艶やかに映る。
綺麗、と羞恥もなく呟く。ほんとだね、と視線を正面に向けたまま、かなでが返した。

「普段は、おいしそう、としか思わないのにね」

振り向き微笑むかなでに、伊吹は、そうだね、と笑って見せた。


この日、昼からロングコースで予約をしていたかなでの客が、急遽キャンセルになった。
その為、今日はもうこれで上がりなんだ、と笑ったかなでを引き留め、由紀也に自分も今日は早退する、と告げ、伊吹はかなでを遊びに誘った。
かなでは初め、「こういう仕事だし、店の人とあまり仲良くなり過ぎないようにしてるんだ」と渋った。
しかし、犬のように纏わりつき、「せっかくだから」「俺もう店早退しちゃったし」「ね、お願い」と、懇願する伊吹に根負けした。「わかったよ。伊吹は俺とどこ行きたいの?」と、かなでが折れた瞬間、伊吹は飛び上がって喜んだ。比喩ではなく、本当に何度も飛び上がった。かなでが思わず笑ってしまうほどに。

そうして伊吹は、かなでとのデートに漕ぎ着けた。
人生最良の日。食べ歩きや、遊園地、映画やピクニックと散々悩んで、最終的に選んだのは、水族館だった。


紺瑠璃の世界を二人でゆったりと歩き、水生生物を眺めては、他愛無いことを話す。
和やかで幸福な時間。ずっと二人でここにいたい、と伊吹は真剣に思った。

外で何か大変なことが起きて、二人して閉じ込められてしまったりすればいいのに。
だけどそれで、例の「やまと」が、かなでくんを助けに来たりしたら。そんなカッコイイ登場は狡い。
いとも容易くかなでくんを攫ってく「やまと」は狡い。

そんな甲斐のない考えを巡らせていると、あのさ、とかなでが言い、伊吹は現実に引き戻された。
かなでは水槽をじっと見つめている。水母が展示されているエリアで、水槽では水水母が、ゆらゆらと泳いでいた。

「伊吹はさ、つらくないの」
「なにが?」
「こういう、後ろ暗い仕事」
「う〜ん、俺は、そりゃ好きではやってないけど、でも」

かなでの顔から、水槽へと視線を移す。

「いろんな人にいっぱい迷惑かけてるし、お金稼がないといけないから」
「でもそれだって、前に聞いた話じゃ、友達のせいだろ」
「だけど引き受けたのは俺だよ」
「すごいお人好しだな」

そうじゃないよ、と小さく返して、俺ね、と続ける。

「小さい頃に両親亡くしてから、すっごい寂しがりになっちゃって」

水水母を目で追いながら、両親の笑顔を思い出していた。

「誰かが傍にいてくれると安心するし、頼られると嬉しくて何でもしちゃう」

だから俺、優しいとか、お人好しとかじゃ全然ないんだよ。自分勝手なの。

「ときどき思うんだ。俺、実は誰のことも好きじゃないんだろうなって」
「友達のことも?」
「好きでいてほしい、必要とされたい、ってそれだけで」
「そういうのも、好きってことなんじゃないの」
「でも誰でもいいんだよ。好きだからじゃないよ」
「それは、それこそ、寂しいな」

かなでのあまりに悲しそうな声に、顔を上げて、その端整な横顔を見つめる。

「そう、なのかな」
「誰かを好きになるって、苦しいこともあるけど、幸せだよ」

そう言って微笑むかなでは、少し寂しげだった。
伊吹の鼓動が密かに跳ねる。

なら、かなでくんは幸せなの? 寂しそうに笑うばかりなのに?

「じゃあ、かなでくんのこと、好きになってもいい?」
「なんだよそれ、伊吹そういう冗談言ったりするんだ」
「冗談なんかじゃないよ」

まっすぐに見つめると、かなでは瞠目し、その目を泳がせ、俯いた。

「俺は、相手がいるって言っただろ」
「でも、ろくでもない奴なんでしょ」

俯いたまま黙り込むかなでに近づき、距離を詰める。途端に軽やかなメロディが鳴り響き、伊吹は足を止めた。
「ごめん、ちょっと」と携帯電話を手に、かなでが傍を離れる。その背を、伊吹は半ば睨むように見つめた。
相手はあの「ろくでなし」だ。微かに聞こえた、「やまと」と呼ぶ声を、伊吹は確かに聞いた。

ああ、本当に「やまと」が、かなでくんを攫ってっちゃう。あんな妄想しなきゃ良かった。

電話を終え、戻って来たかなでは、「ごめん伊吹」と申し訳なさそうな顔をした。

「恋人? ね、かなでくんの恋人って男でしょ」
「なんでわかったの?」
「え、んーと、勘?」

勘か、と照れたような笑いを口元に浮かべたかなでは、俺ね、と続けた。

「俺、こんな仕事してるけど、ほんとは男の人が好きみたい」

それなら、俺にも可能性はあるのかな。

「でも、彼奴だけだよ」

伊吹の心根を見透かしたような、期待の火が燃え立つ前に消し去るかなでの声は、伊吹の胸に、サク、と突き刺さった。

「大和じゃなきゃいらない。だから、俺が好きになる男は、生涯彼奴だけ」
「はあ〜……一回逢ってみたいな」

ただのろくでなしだよ、そう言って微笑むかなでの瞳が、宝石のように煌めき、伊吹は胸中で白旗を上げた。

「もういいよ。ろくでなしが呼んでるんでしょ?」
「ほんとごめん。久々の水族館楽しかった。ありがとね」
「俺のほうこそ。付き合ってくれてありがとう」

伊吹が笑うと、かなでの顔も綻んだ。
軽く手を振り、出口に向かう姿勢の良い背中を見送る。
そうして伊吹は、ぽつんとひとり、瑠璃の世界に取り残された。






泡沫い→



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水族館デート。早退して堂々と遊びに出かける伊吹は清々しいほど羨ましい。


 
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